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ホテルに着くと、会場はすでに盛り上がっていた。
変わってないね、そっちこそ、今何してるの?、結婚は?そんな言葉があちらこちらから聞こえてくる。
少し出遅れてしまった私は周りの賑わいに気圧されてしまって、どうすればいいのか分からない。
知り合いを見つけようにも十数年ぶりともなると誰が誰なのか自信がない。
年のため、来る前に卒業アルバムをみて復習してきたけれどあまり意味はなかったようだ。
取り敢えず飲み物でももらおう、と、バーカウンターへ向かう。
「何になさいますか?」
「えぇと……白の…スパークリングってありますか?」
「はい。少々お待ち下さい」
スッキリとした笑顔で応えてくれたスタッフさんは、手際よく華奢なグラスにキラキラとした液体を注いでくれた。
受け取ったグラスに口をつけると、ほんの少し落ち着く。
手持ち無沙汰感が紛れた私は、壁沿いにたったままその場の様子を改めて見渡してみる。
なんとなく面影がある人から全く誰なのか分からない人までいるけれど、全員に共通しているのはどこかしらみんなとても生き生きしていること。
そう見えること。
華やかだったり、お洒落だったり。凛としていたり、溌剌としていたり。
弾けるようなら笑い声や揺れる髪や、張りのあるスーツの光沢や細められた目に、少し臆してしまう。
……なんか私、場違いじゃないかな。
話し相手が見つからないのもあって、落ち込みそうになった。
そのときだった。
「ーーーあれ?なぁ、もしかして牧村?」
「ーーーーえ?」
不意に名前を呼ばれて振り替えると、そこには随分と背の高い男の人がいた。
「ーーー、あ、」
この人、
「やっぱ牧村じゃん!俺だよ俺、矢部、」
「矢部、……芳樹くん?」
「そー!!矢部 芳樹!久しぶり。変わんねぇなぁ」
そっちこそ、と言おうとしたけれど、ビックリしてそれも言えなかった。
矢部 芳樹くん。
バスケ部のエースで、みんなにすごく人気があった男の子だ。
同じクラスだったけれど話したことは2、3回くらいで、まさかそんな人に覚えてもらえてるとは思っていなかった。
「なんだよ、そっちこそ変わってないね、とか言ってくれねーの?」
呆然としている私に、ニヤリと笑って矢部くんが言った。
私は慌てて首を横にふる。
「あーーーううん、全然変わってないよ。矢部くんも。ちがうの。なんかその、ビックリして…」
「はは、まーこんだけ変わんねーと、ビックリするか。セーチョーしてねーもんなぁ、俺。牧村はなんか、キレーんなったじゃん。昔から美人だったけど」
「なにいって……」
もう。
矢部くんは昔からそうだ。
誰にでも優しい。
誰のことも悪く言わなくて、自信満々で。とても気遣い上手。だから彼の周りにはいつも人が絶えなかったし、きっとそれは今も変わらないのだろう。
矢部くんのおかげで肩の力が抜けた私は、ようやくこの場に来て良かったと思えた。
「誰かと喋ったりした?」
私の隣で壁に背中を預けた矢部くんは、手にしていたビールを飲みつつ視線を会場に移す。
「ううん。夏海とか弥生ちゃんも来てるかと思ったんだけど見当たらなくて」
「あー。来てんのかな…俺もまだ見てねーな」
「そっかぁ……」
思わず、つい少ししゅんとしてしまう。
「仲良かったもんな。連絡とってねーの?」
「うん……夏海とは大学卒業する頃までは会ってたんだけど。就職してからは全然。弥生ちゃんとももうずっと会ってないや」
「そっか」
矢部くんは?と聞こうと思ったけれど、少し迷う。
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