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聞いて、だけどきっと矢部くんは今でもいろんな人と繋がっているだろう。その人たちのところへ行ってしまうかもしれないのは、今の私にとってとても心細い。
それに万が一、矢部くんも今の私みたいな気持ちだったとしたらそれはそれで聞くべきじゃないような気もした。
「ーーーあの、」
逡巡した結果、他の話題を絞り出そうとしたちょうどその時。
「では、お時間になりましたのでそろそろ乾杯に移りたいと思います。皆さん、各クラスのテーブルについてください」
今日の司会を担っているらしい幹事の同級生の声が響いた。
「あ、ーーーー」
どうしよう。
私は思わず狼狽して、会場を見渡した。
会えるかと思っていた仲の良かったクラスメイトは、どうやら欠席らしい。
とりあえず自分のクラスの席に着けば誰かしらには会えるんだろうけれど、どこがいいんだろう。
そう思って自分のクラスのテーブルをいくつか見るけれど、いまいち誰が誰なのか自信がないような人たちばかりだ。
「お。やっと始まるか」
向かうべきテーブルを求めて視線を彷徨わせる私の横で、矢部くんは預けていた背中を伸ばす。
そしてこちらを振り向くと、「何ぼんやりしてんだよ」ときょとんとする。
「行こうぜ」
「え」
そうして当たり前みたいに、私を促した。
「こっち」
「ーーーー、」
うわぁ……。
矢野くんがモテていた理由が今になって、改めてよく分かったような気がした。
私は急いで、矢部くんの後を追う。
そんな私を再度振り返って、矢部くんは笑った。
「…………」
どうってことのないような顔は、できていたと思う。
けれどそれまでよりも軽くなった足取りに気づかずにいられるわけもなく、私はそっと目を伏せた。
視線の先には、矢部くんの左手。
薬指に光るものがないかを確認してしまった自分に、私は呆れた。
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