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なんだかうらやましくてそう言うと、原さんは「変わんなさすぎてあきれるよ」とやれやれと言った様子で頬杖をつく。
「長期休みに帰ったら絶対健太郎も帰ってるでしょ?卒業してからもこんなに顔会わすだなんて思ってなかったし」
「そらこっちのセリフや」
二人の会話を聞いていると、高校の頃この二人がよくからかわれていた理由が、少し垣間見えた気がする。
テンポの良い、息の合った会話。
お互いを本当によく知り合っているんだと言う空気。
間に割って入れないくらいの、信頼関係。
そういうのが見えるから、うらやましくて心地よくて、結果としてからかわれていたのかもしれない。
「牧村、グラス空いてるけどなんか飲む?」
そんなことを考えながら二人の掛け合いを眺めていると、矢部くんがトン、と私の肩をつついた。
「え?ーーーあ、うん、もらおうかな」
ウェイターさんを呼ぼうと周りを見渡すと、矢部くんはいち早く数メートル先にいたウェイターさんに手を上げた。
「ありがとう」
「なんか牧村って、高校ん時に持ってたイメージと違うな」
「え?」
「あんま話したことなかったけど。もっときりっとしたタイプかと思ってた。自分のことは自分でできるの!って感じの」
「やだ。なんか感じ悪くない?それ」
実際の自分とイメージとの違いに、私は苦笑する。
しかも、持たれていた印象はちょっと怖そうなイメージだ。
「確かに、ちょっととっつきにくい感じだったかも」
「凹むよ、それ」
「はは、悪ぃ。でも可愛いじゃん。ほんとは」
「、」
かぁ、と、顔が熱くなった。
けれどそんな私のことなんて全然気にしてない感じで矢部くんはさっさと私に次のドリンクを確認して、ウェイターさんに注文する。
この人、ちょっと心臓に悪いな……。
普段から褒められ慣れている女の子達にとってはどうってことのない言葉なんだろうけれど、免疫がない私には危ない。
そっと、横目で彼の姿を盗み見る。
長い指だ。
くっきりとした目鼻立ち。精悍、という言葉が似合う落ち着いた佇まい。けれど、ふとこぼすように見せる子供っぽい笑顔。
この人に触れられたいと思う女性はきっととても多いのだろう。
「ーーーけど、なんか憧れるなぁ。会社勤め」
はぁ、とため息をつきながら原さんが私を見た。
私は、は、と我に返る。
……私、何を考えていたんだろう。
ええと、原さんは確かついさっき、今は中学校の先生をしていると言っていたけれど。
「え、どうして?」
私はそれまで考えていたことを振り払って、どうということのないような顔で聞いた。
というか、私からすれば、ちゃんと資格を取ってそれを活かして仕事をしている原さんの方が憧れる。
それに高校時代は学級委員をしながら陸上部でも活躍していた彼女なら、きっととても良い先生で生徒たちからも慕われているはずだ。
「だって世界広そうだし。教師って毎日同じ人としか会わないし、何年たっても同じことの繰り返しでしょ?なんか世界狭いなぁって思うんだよね」
「それは会社勤めでも同じだって。俺も普段はずっと同じ面子としか仕事してねーもん」
商社で事業企画をしているという矢部くんは肩をすくめて見せている。
「あ、でも健太郎はそうでもないだろ?営業だと外回りとか」
「あー……まぁ、そら客先とはそれこそしょっちゅう会うけど…けど、言うても相手は客先やからなぁ。どこもそんな大差ないで」
建築会社の営業マンとして普段から客先に出向くことが多いという佐野くんも、つまらなさそうに言う。
「やれどこどこはもっと安いだの納期短くしろだの。そんなんばっかりや。体使う割になまっていく一方やし」
「体力だけが取り柄なのに」
「なんやとコラ」
「まぁまぁ。原もその辺にしとけよ」
取りなすような矢部くんの言葉に、原さんは特に言い返すこともなくそ知らぬ顔だ。
本当に仲が良いんだなぁ。
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