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その葉書は、野菜やお米にレトルト食品、調味料、その他諸々の"the 田舎からの仕送り"の中に、まるで隠れるように恥ずかしそうに、ひっそりと紛れ込んでいた。 運送トラックの中でさんざん揉まれたのか、茶封筒に入っていたそれは、けれどもう随分とくたびれていてあちらこちらに折り目がついてしまっている。 私はそれを手に取り、ぼんやりと見つめた。 「ーーーー同窓会…」 口に出してみたけれど、全く何も感じない。 もう片方の手に握ったままだった缶チューハイが、じんわりと汗をかきはじめている。 仕事から帰ってからのこの一杯は、私にとっては絶対に譲れない習慣の1つだ。 玄関で靴を脱ぎ捨てストッキングもそのまま剥ぎ取って洗濯機に放り込む。それから洗面所で手洗い、うがいを済ませると、冷蔵庫へ直行し買いだめしてあるチューハイのプルタブを開けて一気に半分ほど煽る。そうして一息ついてから、部屋着に着替えて残りのアルコールをちびちびと楽しむ。 そんな私の日課が、けれど今日は母から送られてきた荷物によって少し妨げられた。 いや、荷物自体は有り難いのだけれど。 ………取り敢えず、飲もう。 左手に葉書、右手に缶チューハイ、ジャケットも着たままでベッドに腰を下ろす。 片手で缶のプルタブを開けて勢いよく中身を口内に流し込むと、小さな泡が舌や上顎に触れてはぜた。渇ききっていた喉に心地よい刺激が広がっていく。 結局、たったの一口で3分の2ほど開けてしまった。 漏れたため息が僅かに酒臭い。 ほんの少し脳が息を吹き替えしたことを確認してから、私はもう一度、葉書に視線を落とす。 T市立葉桜高等学校 同窓会のご案内 確かにそう書かれている。 一度目を閉じて、深呼吸して。目を開けて、そのまま内容を読み進めてみる。 拝見 暑中お見舞い申し上げます。お変わりもなくお元気でご活躍のことと存じます。 さて、私たちT市立葉桜高校の全員は、三十代となりました。 つきましては、久々に近況などを語らいながら、秋の夜長に旧交を温め、親睦を深めたいと存じます。 ご多忙中とは存じますが、ぜひご出席くださいますようご案内申し上げます。 開催日はちょうど2ヶ月後の、10月13日。場所は地元のホテル。 私みたいに地元から離れている人のことを気遣ってくれているのか、三連休の中日に予定されている。 正直、なんだかあまり実感がわかない。 これまで一度もこんな案内は来たことがなかったし、同窓会何て言うのはドラマや小説のなかで見かけるもので、自分には縁のないものだとばかり思っていたからだ。 だからなのか、これまで自分の高校時代のことなんて、ほとんど思い出すことなんてなかった。 いや、違うか。 思い出さないようにしていた、という方が、正しいのかもしれない。 「……人、集まるのかな」 返信期日までは、まだ余裕がある。 仕事で疲れきっている頭と身体で出席を検討するのは辛くて、私は葉書を取り敢えずベッドサイドチェストの引き出しにしまった。 残りのチューハイも一気に飲み干して、ようやくジャケットを脱ぐ。 けれどその10分後には、私は葉書の返信欄に、出席であることを記入していた。 ほんの少しの好奇心と、期待に負けて。
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