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***epsode 1***
高校時代を振り替えって思い出すのは、息苦しさだ。
決してひどい高校生活ではなかった。むしろ、充実していた方だと思う。
全員が全員仲が良かったというわけではないし、例えばクラス全体で一丸となって何かを成し遂げたとか喜びと感動を分かち合っただとか、そんなことはない。
けれど、みんな良い人たちだった。
いろんな人がいたけれど、それはみんな個性というレベルで受け入れがたいものではなかったし、時にはそれなりにいざこざはあれどイジメというようなものもなかった。
だから、きっと私の高校生活は、客観的に見れば至極平和だったのだろう。
そう思う。
でも。
何もなかったわけではないし、何の不安もなかったわけでも、ない。
「あっ…つぅ………」
降り立った駅のホームで、私は思わず呟いた。
異常気象にも程がある。
もう10月の半ばに差し掛かっているというのに、最高気温は28度。高くなり始めた空に、ギラギラとした太陽というコントラストはちぐはぐで、ため息まで漏れてしまった。
数年前にやっと導入されたICカード対応の改札を抜けると、そこに広がる景色は山、山、山。そして、空。
これぞ田舎、といった景色。
遠い昔の私の日常が、変わらずそこにはあった。
私が物心ついた頃からある写真屋さんも、喫茶店もそのままだ。
「変わんないなぁ……」
ホッとしたような、呆れたような。
東京みたいに変わるのが当たり前の環境に慣れてしまったからなのか、むしろ感心するくらい。
って、生意気かな、私。
一人で苦笑して、取り敢えず傍にあったベンチに腰を下ろす。バッグからミントタブレットを取り出して口に放り込んだ。
電車のなかで母に到着予定時間を伝えたので、そろそろ迎えに来てくれるはずだ。
なにせバスなんて一時間に三本くらいしかないのだからそこは甘えさせてもらうことにする。
それにしても、いつきてもここは本当に空気の穏やかだ。
ほんの数時間前までは分刻みのダイヤに気をとられて駅構内を小走りしていただなんて、信じられない。
「みんなも、変わってないのかな……」
私も……変わっていないのかな。
何度も見返した同窓会の案内を、もう一度眺めてみる。
そうしていると自然と溢れてくるのは、なぜか高校時代の思いでなんかじゃなくて。
高校を卒業してからのことばかりだ。
大学では経済学を専攻した。
サークルには入らず、バイトと勉強で精一杯だった。
けれど、時々友達とお酒を飲んだりカラオケで朝までおしゃべりに興じたりもして、それはとても楽しかった。
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