紙飛行機に綴る

1/11
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

紙飛行機に綴る

 二十歳を過ぎて社会に出れば、自然と大人になれるものだと思っていた。  自分の好きな仕事をして、夢を叶えて、同僚や友人たちとショッピングをしたり、飲みに行ったり……そんなキラキラした生活が待っていると信じてやまなかった。  けれど、現実はそう甘くない。理不尽な世界に飲まれて、息苦しい海底へと沈んでいく。光なんて見えなくて、私は彼方まで広がる暗闇を途方もなく歩き続けるのだ。  そうネガティブな思考しか持てなくなった私は、ヘトヘトになりながら自宅の扉を開けた。「おかえり」なんて声が返ってくるはずもなく、私は起床時から変化のないベッドに倒れこんだ。  憧れの図書館司書になってから半年。輝かしい社会人生活を夢見ていた私は、絶望のどん底に居た。  図書館業務の要とも言えるレファレンス業務は、利用者のニーズに上手く答えることが出来ないし、口下手なせいで分かりやすい説明をすることもできない。それから、最近は減ったが、他の業務でも失敗を重ねている。おまけに、館長は手厳しい人で、失敗をしなくても意味もなく小言を言いつけてくる時もある。人付き合いが得意でない私は、同僚とのコミュニケーションも上手く取れていない。  幼き私が夢見た図書館司書というかっこいい存在は、いつの間にか薄く汚れて何の魅力も感じなくなってきてしまっていた。それもこれも、自分が面倒な人間なせいだけれど。  ……あぁ、このまま居なくなりたいな。仕事も上手くいかないし、あれほど抱いていた憧れの気持ちもほとんど消えかけている。  もう、全部諦めてしまおうかな。  ベッドに顔を埋めた私が、目の奥を熱くさせた時に、コツンと頭に何かが当たった。既に睡魔が手招き始めている中、私はその正体を確かめた。  それは、小さな紙飛行機だった。帰ってきた時に半ば無意識で開けた窓から入り込んできたらしい。  何を思ったのか、私はその飛行機を解体した。  中には、少々雑で癖のある字で「お元気ですか?」の一言だけ。  これが、最初に私に届いた不思議な手紙だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!