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「現時点で月に対する多大な投資への見返りは充分に得られたとは言えません。しかし、政府は月が生み出す富を月に封じ込めようとしました」
ナカモトは淡々と語った。
「核融合発電やチタン鋼の生産が軌道に乗り、将来的に富を地球へと還流できる可能性は高まっています。ですが、これまでに投じた投資分を埋め合わせるにはまだ多少の時間がかかるでしょう。そうした中で登場したこの通貨政策です。月で生み出される富を地球に移転するのが難しくなったのは間違いない」
リクは不思議に思った。
<どうしてこんな分かり切った経済論議を吹っかけてくるんだ>
「しかし、別の見方をすれば」
ナカモトは再び話し始めた。
「月の経済規模は人口の増加ペースをはるかに超えた勢いで成長し続けています。そうなると、当然、『ルナ』の価値は増大します。『ルナ』の両替を難しくした政策の下では、これまで月に投資した企業や人にとって、生み出した富をわざわざ手数料を払って地球に移動するよりも、月で効率的に増やした方が良いということになりますね。何よりここは税金が際立って安い」
「それこそがこの通貨政策の目的でしょう。せっかく生み出した富を地球に流出させずに、さらなる月の開発に投資させ、月単独で成長への循環をつくろうというのが…」
ナカモトは小さく頷いた。
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