4.取引所

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 サトシ・ナカモトと名乗る男とは、取引所で二時間ほど話し込んだ。胡散臭さは最後までぬぐえなかったが、敵でないことだけは分かった。リクが今対峙している連中なら、こんな面倒なことはしない。 「手を組むと言っても、私の一存では決めかねます」  リクが言うと、ナカモトは首を横に振った。 「一存で決めるしかないでしょう。このことを組織に相談する訳にはいかない。報告した時点ですぐに解任され、地球に呼び戻されます。それはあなた自身が最もよくお分かりのはずだ」  リクには返す言葉がなかった。月コロニーへの潜入工作なのに、身分がバレてしまっては、任務は失敗と見なされる。 「あなたには二つの選択肢しかありません。我々と手を組んで奴らを叩き潰すか、一人で踏ん張ってやりたい放題やられるか、です」  ナカモトは静かな口調ながら、強く迫ってきた。 「私は奴らに『ルナ』を滅茶苦茶にされたくはない。あなたも同じではないですか。賢明な判断をしてくださることを期待しています」  当然ながら初対面のこの会談で結論はでなかった。月に赴任してから半年余り。誰にも心許すことなく、高度で繊細な作業をすべて一人でやってきた。急に「仲間にならないか」と持ち掛けられて、「はい、そうですか」とはならない。しかも、それは自分の属する組織をある意味で欺くことにもなり得る。 「少し時間がほしい」  ナカモトとの会談の後、リクがやっと言えたのはこの言葉だけだった。ナカモトは静かに言った。 「お気持ちはよく分かります。突然現れた私を今すぐ信用しろというには無理がある。ですが、時間がそれほどないことも、あなたはよくご存じのはず。なるべく早いお返事をお待ちしています」  ナカモトの表情から微笑は消えていた。
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