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5.ハマダさんの本業
ナカモトは「まだやることが残っている」と言って取引所に残った。
リクは一人で自動運転の地下鉄に乗り、元の場所に戻った。地下三階からエレベーターで上ると、来た時と同じく、静かなマンションのロビーがあった。
リクの頭の中は混乱していた。月に赴任してから半年余り、任務に没頭していたので、まさかこのような事態が訪れるとは想像もしていなかった。もちろん自分の身分が明らかにならないよう、細心の注意は払ってきたつもりだ。表向きの勤務先でもヘマをやらかしたとは思えない。ではなぜ…。
思い当たる先はひとつしかなかった。
自宅マンションに戻ってきたのは午前2時近かったが、あの男はロビーのいつもの席に座っていた。
「お帰りなさい、カワダ様。アポロ・タワーはいかがでしたか」
ハマダさんはいつものように穏やかな微笑みを浮かべていた。
「あなたは何者ですか、ハマダさん」
リクがいきなり投げつけた言葉は、ハマダさんに浮かんでいた微笑を一瞬奪ったが、すぐに柔和な表情が戻った。
「私はこのマンションのコンシェルジュです」
ハマダさんはすぐにこう答えたが、瞳の奥には何かしら秘めた決意のようなものがあると、リクは直感した。
「あなたのおっしゃる通り、アポロ・タワーに行きました。そこで、信じられない人物と出会い、信じられない場所に行きました。こうなることをあなたはご存じだったんですね」
リクの厳しい口調にもハマダさんは全く動じることなく、静かに口を開いた。
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