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テスト勉強編
水野さんの家は大体親がいない。
というか、一度も会ったことは無い。
水野さんは仕事だからしょうがないと言っているけど寂しくないのだろうかと思う。
でも、単なる友達に普通は寂しいなんて言わないこともちゃんと知っている。
「テスト面倒だよね。」
友達として聞けそうなことを話す。
水野さんは、言葉と裏腹に少しだけ嬉しそうな表情をして「テスト終わったら遊ぶことだけを楽しみにしてる。」と言った。
「あー、分かる。中間だけど終わったらどっか遠くに行きたい。」
俺が答えると水野さんは「まあ、隣町の映画館位になるけど行かないか?」と聞いた。
「何か見たい映画とかある?」
勉強にも飽きてきたところだった。
それに水野さんは勉強の教え方が上手い。授業中に詰まってしまった部分もかみ砕いて教えてくれたおかげで思ったより復習は進んでいた。
「えー、なんだろ。あのゾンビのやつとかかな。」
「ゾ、ゾンビ……。」
ホラーは正直あまり得意ではなかった。
ふっと水野さんが笑った。
「別にいいだろ苦手でも。」
「そういうつもりじゃないよ。じゃあ、歴史漫画が原作のやつにしようよ。」
水野さんは、二人で楽しめるやつにしよう。テスト明けが楽しみだと言ってそれからノートに視線を移した。
俺に勉強を教えてばかりで大丈夫なのかと思ったけれど、彼のノートには問題集の答えが綺麗に書かれている。
「武藤君どうした?分からないところでもあるかい?」
水野さんに言われて「ち、違うよ。」と慌てて教科書に視線を戻す。
僕が追試になってしまったら映画どころではないのだ。
詰め込める部分だけでも詰め込んで、水野さんと遊びに行きたかった。
友達だけで映画に行くのも実は初めてなのだ。
少しウキウキするような気分になりながら勉強を進める。
部屋にはシャーペンを走らせる音と、ページをめくる紙の音しかしない。
◆
「ちょっと、休憩する?それとももう帰るか?」
水野さんに声をかけられて、思わずびくりとしてしまう。
思ったよりも時間が過ぎていたみたいだ。
集中できたおかげで思ったよりも勉強ははかどった。
スマホで確認するともう8時を過ぎている。
「うわっ、もうこんな時間!?」
夕飯も食べないで、もしかして水野さんちの迷惑になってしまったかもしれない。
「ごめん。水野さんご飯の時間とかもあるよね。」
「あー、まだ誰も帰ってきてないから。」
水野さんの歯切れは悪い。
「そんなことより武藤君は大丈夫なのか?」
自宅まで自転車で15分ほどとはいえ正直少しまずい。
「ああ、うん。今日はこれで帰ろうかな。」
「送っていこうか?」
水野さんはそういう。
多分うちの母に一緒に謝ってくれるという意味なのかもしれない。
「大丈夫。テスト前だし、水野さんがそんな気をつかうことない。」
「……そうか。」
水野さんは、じゃあ明日学校でと言って家の外まででて見送ってくれた。
「映画、楽しみにしてるから。」
俺がそう言うと水野さんは「実は俺もかなり楽しみ。」と言って笑った。
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