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再会編
それは自分でも信じられない位、一途な気持ちだったのかもしれない。
あれから水野さんの消息は分かっていない。
ただ、あの日一度だけ水野さんから聞いた大学の志望だけは覚えていた。
二度とここに戻らないかもしれない。
高校時代の一時の気の迷いだと、そう思っているのかもしれない。
けれど、諦めきれなかった。
彼の志望していた大学は自分の元々の学力よりもかなり上だったけれど、もしかしたらあの時紙に書かれていたものは彼が本当にそう望んだものなのかもしれない。
それに、あの青い絵の場所が調べられる大きな図書館のある場所に行きたかった。
人は自分と違うものに憧れて、恋をしてしまうものだ。
俺と、水野さんはあまりにも違って、その所為ではないけれどあまりにも忘れ難かった。
◆
4月、入学式用のスーツを着て入学式をする講堂に向う。
水野さんへの想いだけでここまで来てしまった。
きょろきょろとあたりを見回して、探してしまう。
いないのかもしれないのにあの日の少しのやり取りに期待してしまう。
馬鹿なのかもしれない。
実際、高校一年の時の俺はバカだった。
大事なものと離れてしまって思い知った。
最近桜はもう4月の上旬に散ってしまうというのに今年は遅咲きらしく、薄いピンク色の花びらが風に舞っている。
その中で、少し背の高い学生がいるのが見える。
高校の時よりもさらに背が伸びた彼がこちらを振り向く。
涙が溢れそうになる。
俺の事に気が付いた水野さんは目を細めて、それから、一歩一歩俺の元に近づいてくる。ああ、本物の水野さんだ。
頭の傷も外見では何も残っていない。
「久しぶりだね。」
水野さんは笑った。
あの日、力なさげな笑みではないけれど、少しだけ困った様な所在なさげな笑みだった。
思わず水野さんに抱きついてしまう。
「周りの目とやらが、ここでは問題になるんじゃないのかい?」
水野さんが、ちゃんと地球の常識を学びなおしたんだと笑う。
「そんな事どうでもいい。」
周りの目も何もかもどうでもよかった。
ただ、目の前に水野さんがいる事、また出会えた事だけが嬉しかった。
他の事は、どうでもよかった。
「俺の宇宙人君。」
水野さんが耳元で言う。
それはまるで――。
思わず赤くなってしまった俺に、水野さんはとても嬉しそうに笑った。
了
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