雑木林

1

　鈴村大輝(すずむらたいき)はその素朴で抒情的な町のたたずまいが好きだった。地方都市の外れにある小さな町には小学校と中学校がそれぞれひとつずつあり、古くからある商店街があった。時代の流れとともに数多くいた若者たちは都市部へと流出し、高齢化と過疎の波が静かに街に忍び寄っていた。

　それでも大輝は、ここ田尻野(たじりの)町に深い愛着をもっていた。徒歩で20分ほどかかるが私鉄の駅があり、彼が働いているデパートには片道40分ほどで行くことができる。駅前には飲食店が四軒しかないが、大輝はそのうちの一軒、桂華園という中華料理店が大のお気に入りだった。仕事帰りに立ち寄り、冷たいビールとともに注文するスタミナラーメンの味は絶品だった。