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 大輝が住むアパートは築40年ほどの古い二階建てだった。小さなキッチンと六畳一間の簡素なつくりだったが、風呂とトイレも完備している。一階にある大輝の部屋は風通しもよく、真夏でもないかぎり冷房は必要なかった。  アパートの裏手には小高い丘があり、その周囲は薄暗い雑木林になっていた。丘の上には小さな祠があるものの誰も住んではいない。アパートと雑木林の間は空地になっている。聞いた噂ではそこはもうすぐ駐車場になる予定らしい。  大輝はアパートの裏手にあるこの空地から雑木林への小道を散歩することが好きだった。空地の赤茶けたむきだしの土と雑草を踏みしめ、コナラやクヌギが乱雑におい茂る雑木林へと入る。木々の隙間から差し込む陽光は幾重にも分裂し、光と影のタペストリーを形成する。大輝は誰もいない雑木林にしばし佇み、思索することが好きだった。
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