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父が母を裏切った訳ではない。だけど、母が亡くなってから出会ったからと言って、まだ喪も明けないうちから、その人と一緒に住むとか、そんな話をする父に私は裏切られたような気持ちがした。
それが父の選択した老後だとしても、母と暮らした家にその女性がやってくるのは受け入れがたかった。
だけど、それでも父には父の、私には私の人生がある。「つまらない事で悩んで大切な時間を無駄にしないで」、母にそう言われた気がする。
今、自分がどれ程貴重な時間を過ごしているのかなんて、考えた事がなかったけれど、ただの日常会話ですらとても大切な時間だったのだ。だって、母と話そうとしたってもう二度と出来ない。こうして母が夢の中に訪ねて来てくれても、それは現実の世界ではない。
いつか誰しもがあの遠い空へと行く。それは逃れられない道だ。だから、それまではそれぞれの人生を精一杯楽しんで歩むしかない。
母の笑顔は、そんな風に思わせてくれた。
――遠い空から、来てくれてありがとう、お母さん。
―end―
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