遠い空から

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 二階の子ども部屋はベランダから差し込む夕焼けの光でオレンジ色に染まっていた。良く晴れた秋の夕方。空気がカラリとしていて爽やかだ。ベランダに干していた洗濯物も全て気持ち良く乾いていた。 「今日は良く乾いたね、洗濯物」  母はそう言いながら、手際良く次々と畳んでいく。家族それぞれに分けられた洗濯物の山がだんだんと高くなっていく。  洗濯物が良く乾いた、たったそれだけのことなのに、母はとても嬉しそうだった。 「ホントに良く乾いて良かったね。お母さん、洗濯好きだものね」 「そう! 家事の中で洗濯が一番好き。だって洗濯機が勝手に洗ってくれるし、きれいになるし、気持ちいいでしょ?」 「ふふっ。お母さん、昔はよく誰かが着てる物まで剥ぎ取って洗ってたね」 「だって! お父さん、放っておいたらいつまでも洗濯に出さないんだもの」 「そうだったね…」  久しぶりの母との会話だった。子ども部屋の床に向かい合ってペタリと座り、家事をしながらの何てことはない話。だけど、こうして母と話せること自体が嬉しかった。
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