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ようやく見つけたアラーム音の出所は、枕元に置いていたスマートフォンだった。画面の表示は「6:00」、朝の六時だ。スライドさせてようやく電子音が止まった。
そのまま暫く茫然としてしまう。寝室はまだ薄暗く、私はベッドの上にいた。隣のベッドでは優人さんがまだ寝息を立てている。頭の半分は、優人さんを起こしてしまわなくて良かったと考えていたけれど、後の半分は状況が理解出来ずにボンヤリとしたままだった。
オレンジ色の光も、洗濯物の山も、さっきまであったと思っていた物は何もない。ここは子ども部屋でもない。強いて言うなら、寝具から新しい柔軟剤の香りがしていて、それが唯一夢の中と同じだった。
――お母さん、帰っちゃったんだ。
楽しい会話の余韻がまだ胸の中にあった。楽しさの後の寂しさでちょっと胸が痛い。
――“元気?”って、私は何を聞いてるんだろう。
もう亡くなってしまっている母に、他にどう聞いて良いか分からず、一瞬の躊躇の後そう聞いてしまっていた。小さく笑った母も、「死んだ人間に何を聞くんだろう」と思ったに違いない。
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