遠い空から

　それに、考えてみれば、こんな悩みを他人に相談する訳にもいかないし、母以上にこの悩みを分かってくれる人はいないはずだ。

「お父さんがね…」

「何、お父さん、また何か変なことしてるの？」

「またって！変なことって言うか。…もうすぐ私の誕生日でしょ？」

「いくつになるんだっけ？」

　誕生日が来たら、三十五になる。三十代も半ばで、今悩んでいる事は幼稚過ぎないだろうか？

「年齢はいいの！お父さん、誕生日のお祝いをしたいって言ってくれて」

「良いじゃない、してもらったら」

「いや、もう子どもじゃないし、何にも要らないよって言ったんだけどね。でも何かするって言ってくれたから。じゃあ誕生日にウチに食べにおいでよって誘ったの。ほら、ビストロ・マツヤマのオードブル、優人さんが買ってきてくれる事になってて」

　ビストロ・マツヤマは私が子どもの頃から家族で良く出掛けた、家庭的な雰囲気の小さなフランス料理のお店。誕生日、入学、卒業…お祝いと言えばよくそこへ食事に連れて行ってもらった。シェフの松山さんと奧さんの二人が気さくで温かで、お店もそのまんまの雰囲気でとても居心地の良いお店。

　最近はお店に行くこともなかったけれど、久々にあのお店の料理が食べたくなったから。