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終幕 Trick or Treat !!
カサカサカサ……冷たい夜風が、半分枯れ掛けた草を鳴らしていく。オレは沼の縁に供えられた、花束を拾い上げた。
二つとも今朝置かれたのか、少ししなびていた。白い秋バラとコスモスのカラフルな花束。コスモスの方には小さなジャック・オ・ランタンの飾りがついている。
「父さんと母さんとダニエル、それとゲイルだな」
触れただけで、四人の気持ちが伝わる。
あの後、オレは泣き出すのを必死にこらえて、オレの家を後にした。
父さんは送っていくと言ったけど、寄るところがあるし、村の中の伯母さんの家に帰るだけだからと断って。
そして、またジャックに手を引かれて、飛ぶようと駆けて戻ってきたのだ。
月の光に寒々と光る沼の面を、風が撫でて細波を立てる。
「ありがとうな。ジャック」
オレは二つの花束を抱え、ジャックにお礼を言った。
「助けてくれて」
誰にも見つけてもらえず、十三年間も沼の底に捕らわれ、自分が死んだことも知らずに、毎年、死んだ日に死ぬ瞬間を繰り返していたオレは悪霊になりかけていたんだ。
あの時々オレから滲み出ていた黒いモノは、オレの寂しさや、生きている者への妬みが生んだ邪気だった。
「マっさかァ~」
ジャックが初めて会ったときのように、くり抜かれた口をヒクつかせてケタケタと笑う。
「だッテェ~、キミが悪霊にナると、邪気で山ブドうが、オいしクなくナルんだヨォ~」
「そっかぁ~」
オレもジャックのマネをしてケタケタと笑った。
「お前、本当に食いしん坊だなぁ~」
思いっきり笑い声を上げる。
この嘘つき。オレがゲイルに、邪気を放ちそうになったとき、止めてくれたくせに。
母さん達と食事をさせて、皆がまだ、オレを待ってくれていることを気付かせてくれたくせに。
アレが全部、山ぶどうの為かよ。
ケタケタケタケタ、涙が流しながら、腹を抱えて笑う。何故かジャックも一緒になって楽しそうに笑い出す。
二人で笑って、笑って、笑って……、オレは、やっと涙を拭って、笑いを止めた。
ふわり、身体が浮く。
「逝くノ?」
ジャックが訊く。
「うん、逝けそうだ」
オレが答える。
「ジゃあ……」
ジャックが手をパアンと合わせた。
オレの手から二つの花束が浮かび、くるくると一つになって、カボチャのランタンになる。
「コレなら、もウ、迷わナいネェ~」
オレはランタンに手を伸ばした。四人の気持ちのこもった、ほんのり暖かい明かり。これなら、どんな暗くて長い道も迷わず逝ける。
「ああ」
しっかりランタンを握り締め、もう一方の手をジャックに向かって振る。
ふわふわ、身体が更に軽くなる。オレは星空に登るように浮かびながら、段々と小さくなるジャックに叫んだ。
「ありがとな~、ジャック! お前も早く逝けよ~!」
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