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祭りで唯一買ったりんご飴を投げ捨て、膝を抱えて蹲る。
ふいに近づく誰かの足音。
「お姉さん、りんご飴、いらないの?」
顔を上げると、小学3年生くらいの小さな男の子の姿が目に映る。
その顔は白い猫の仮面で隠れている。
「うん、いらないの」
私は再び俯く。
「お姉さん、大丈夫? 嫌なことでもあったの?」
心配そうな男の子の声が頭上から聞こえる。
「うん、そうなの。だから、どこかに行って」
今は一人になりたかった。だから私は突き放す様にそう言う。
しかし、男の子が動く気配は一向にない。
「そうだ! 僕、いいところ知ってるんだ。お姉ちゃんをそこに連れて行ってあげる!」
男の子は急に私の手を引いてくる。
「ちょ、ちょっと」
私は引きずられるように森の中へと連れて行かれた。
明かりは葉の隙間から覗く月の光だけ。暗い暗い森の中。
「ほら、あそこだよ!」
男の子が指をさす。その先の、木々の隙間から見えるのは小さな光。
光に集まる虫のように、その光に向かって走る。
——おいで、——おいで、光の下へ。
その先はお姉ちゃんの望む場所——。
どこからか、子供たちの重なった声が響いてくる。
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