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森の中の開けた場所。その中央にはぽつりと屋台が1つとそこに群がる子供たち。
さっきの光の正体はどうやらその屋台のようだ。
屋台に並ぶのはたくさんの仮面。
「お兄さん、お兄さん!」
男の子は子供たちの集団を押しのける。
後ろからだとよく分からなかったが、子供たちはみんな、男の子と同じ猫の仮面を着けていた。
気味が悪い。私は子供たちに対してそう思った。
お兄さんと呼ばれた人は男の子の顔の高さまでしゃがむ。
「やあ、かわいい少年くん。いらっしゃい。何が欲しいのかな?」
気さくなお兄さんの声。しかし、顔は黒い猫の仮面で隠され、よく見えない。
「ううん、僕じゃないの。こっちのお姉ちゃんなの」
男の子は後ろにいる私に指をさす。
「おやおや、これは珍しい。大きなお客さんが来るのは久しぶりだよ」
お兄さんは立ち上がる。
「さて、かわいいお嬢さん。きみは何が欲しいのかな?」
私はお兄さんの横に並ぶお面を見る。
どこかで見たことのあるパーティ用の仮面から、鳥のくちばしのような変わった形のものまでさまざまだ。
「私はこの子に連れてこられただけで何も……」
「このお姉さんね、すっごく悲しそうだったんだ。お姉さんが元気になる仮面はないの?」
男の子は私の言葉を遮るように前に出る。
「そうかい、それは大変だね」
お兄さんは男の子の頭を優しくなでる。
「そちらのかわいいお嬢さん、いったい何が悲しいんだい?」
黒い猫の仮面がこちらを見る。
「え、えっと……」
見ていると心が吸い込まれそうな仮面。その仮面を見つめていると無意識に口が動き出す。
「私は自分が嫌いなんです。私のこの顔が。あの人みたいに美人だったら、きっとこんな気持ちになんてならなかったのに——」
——私はお兄さんにすべて話した。達也くんに振り向いてもらえない、大嫌いな私のことを。
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