白雪の仮面

4/8
前へ
/8ページ
次へ
「そうかそうか。いやー、お嬢さん。きみは実に運がいいよ!」  私の話を聞き終えるなり、お兄さんは嬉しそうに話し始める。 「ここにあるのはただの仮面じゃない。きみのような人を助けるためのステキな仮面なのさ」 「私を助ける……ステキな仮面?」  私はもう一度並んでいる仮面を見る。何度見てもただの仮面にしか見えない。 「お兄さんの話、本当だよ!」  私を連れてきた男の子が急に喋る。 「私の仮面もここの仮面なんだ!」 「俺のもだよ! ここの仮面のおかげで今すっごく楽しいんだ!」  男の子に続くように、周りにいた子供たちも口々に言いだす。 「そうだなあ……きみの場合だと……」  お兄さんは並ぶ仮面と睨み合っていた。 「うん、これかな」  そう言って私の目の前に取ってきたお面を見せる。それは、みんなとは違う、人の顔の形をした仮面だった。 リンゴの皮みたいに薄い薄い仮面。    真っ白な顔に鮮やかに咲いた薔薇のような頬と唇。まるで生きているかのようなその仮面に、私の心は一瞬で惹かれた。 「きれいな顔……」 「早速着けてみてくれないかい?」  私はお兄さんの言葉に誘われるまま、その仮面を顔につける。 「お姉ちゃんこっち! こっち見て!」  横から聞こえる子供たちの声。私は子供たちのほうに顔を向ける。 「うわあ! すごいすごい! お姉ちゃんすっごく似合ってるよ!」  1人の子供が鏡を両手に抱え、私の前に出る。 「ほら、お姉ちゃんも見てみなよ!」  鏡に映る私の顔。いや、これは本当に『私』なのだろうか。  鏡に映し出された少女は、まるで白雪姫だった。 雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪。 「すごい……これは……私なの?」  自分の顔にそっと触れると、鏡の中の少女も同じように自身の頬に触れる。  その触り心地は本物の肌のようだった。  ゴムやピンのない仮面。だけどその仮面は私の顔に取り込まれたかのように、がっちりと固定されて、まるで最初からこんな顔だったかのようだ。 「やっぱり、僕の見立ては間違っていなかった! とてもよく似合っているよ!」  その表情は見えないがきっと笑っているのだろう。 「お嬢さんが気に入ってくれたなら、それはきみにあげるよ」 「え、いいのですか?」 「ああ、もちろん。そのほうがきっとその仮面も喜ぶだろうしね」 「そんな……ありがとうございます!」 その時、私は気づいた。  その日私が出会ったのは、お兄さんの仮面を被った神様だって。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加