1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうかそうか。いやー、お嬢さん。きみは実に運がいいよ!」
私の話を聞き終えるなり、お兄さんは嬉しそうに話し始める。
「ここにあるのはただの仮面じゃない。きみのような人を助けるためのステキな仮面なのさ」
「私を助ける……ステキな仮面?」
私はもう一度並んでいる仮面を見る。何度見てもただの仮面にしか見えない。
「お兄さんの話、本当だよ!」
私を連れてきた男の子が急に喋る。
「私の仮面もここの仮面なんだ!」
「俺のもだよ! ここの仮面のおかげで今すっごく楽しいんだ!」
男の子に続くように、周りにいた子供たちも口々に言いだす。
「そうだなあ……きみの場合だと……」
お兄さんは並ぶ仮面と睨み合っていた。
「うん、これかな」
そう言って私の目の前に取ってきたお面を見せる。それは、みんなとは違う、人の顔の形をした仮面だった。
リンゴの皮みたいに薄い薄い仮面。
真っ白な顔に鮮やかに咲いた薔薇のような頬と唇。まるで生きているかのようなその仮面に、私の心は一瞬で惹かれた。
「きれいな顔……」
「早速着けてみてくれないかい?」
私はお兄さんの言葉に誘われるまま、その仮面を顔につける。
「お姉ちゃんこっち! こっち見て!」
横から聞こえる子供たちの声。私は子供たちのほうに顔を向ける。
「うわあ! すごいすごい! お姉ちゃんすっごく似合ってるよ!」
1人の子供が鏡を両手に抱え、私の前に出る。
「ほら、お姉ちゃんも見てみなよ!」
鏡に映る私の顔。いや、これは本当に『私』なのだろうか。
鏡に映し出された少女は、まるで白雪姫だった。
雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪。
「すごい……これは……私なの?」
自分の顔にそっと触れると、鏡の中の少女も同じように自身の頬に触れる。
その触り心地は本物の肌のようだった。
ゴムやピンのない仮面。だけどその仮面は私の顔に取り込まれたかのように、がっちりと固定されて、まるで最初からこんな顔だったかのようだ。
「やっぱり、僕の見立ては間違っていなかった! とてもよく似合っているよ!」
その表情は見えないがきっと笑っているのだろう。
「お嬢さんが気に入ってくれたなら、それはきみにあげるよ」
「え、いいのですか?」
「ああ、もちろん。そのほうがきっとその仮面も喜ぶだろうしね」
「そんな……ありがとうございます!」
その時、私は気づいた。
その日私が出会ったのは、お兄さんの仮面を被った神様だって。
最初のコメントを投稿しよう!