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「何してるの? もしかして自分で作る気だったの?」
いつのまにか妻が帰っていた、鼻で笑うように言った彼女の手にはコンビニ袋が下げられてあり、中身は弁当のようだ。
「どうせ何も作れないんだから、やめてよね、キッチン汚すの」
そんなことない、簡単な物なら俺にだって作ることはできる、完全に馬鹿にされていることはすぐに分かった。
自分が死ねないのなら、殺す、というのはどうだろう。
幸い俺の手には包丁が握られてある、これで妻の背中を一突き、そのまま二階に上がり娘の首もとに刃を当て、一気に引き抜く。そうすれば誰にも迷惑がかからない、俺だけが牢屋の中で一生暮らせばいいのだから。握る右手に力が入った。
「はい」
無造作に袋から取り出したコンビニ弁当を俺の前に置いた「野菜もたっぷり幕ノ内弁当」、緑や赤の野菜が多めの弁当だ、妻は俺が野菜嫌いなのを知っていて、あえてコレを買ってきたのかと思うと、つくづく嫌になる。
「腹が減っているのだから肉が食べたかった」と、言うのはやめておこう。
「嫌なら食べなくていいから」
俺の表情に気づいたのか、その一言だけ残して二階に上がった。
若干透明の蓋が歪んでいる、会計の時に温めてもらったのだろう。
腹が減っては戦はできぬ、まずは腹ごしらえ、殺すのはその後でもいい。野菜は食べずに茶色い肉の部分だけ食べた。
ふと、一番上に置いてある茶封筒が目に付いた、宛名のみが書かれた奇妙な封筒、名前は俺だったが差出人は書いていなかった。
箸を置きその封筒を手に取ると指で破った。中には一枚の便箋が入っていた。
約束の時が来た。
山の上公園でその時を待つ。
内容はたったの二行で終わっていた。山の上公園といえば、子供の頃によく遊んだ公園だ、あの事件が起こるまでは……
パソコンで書かれた文字ではなく、手書きだった。封筒の差出人を再度確認するが、やはりどこにも書いていなかった。いったい誰が、何のために、あの事件のことを知る人物なのだとしたら、なぜ今さら……
何かの嫌がらせなのだろう、俺は便箋を封筒に戻し、弁当を食べることを再開した。
誰もいない部屋で腹を満たした俺に殺意は無くなっていた。
◆◇◆
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