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大人になった村上へ
大人になった村上は何をしていますか?
大人になった村上元気で毎日を過ごしていますか?
結婚はしていますか?
大人になった村上は、幸せですか?
飯島
最後の質問には即答出来なかった――――
並べて入れた俺の書いた方のカプセルは無かった、飯島も掘り起こして読んだのだろう、内容は同じようなことだったと思う。
一度月を見上げてため息をつく、紙を持った指が若干擦れた、感覚で分かった。
二枚目がある、俺は質問の答を保留にしたまま二枚目を手前に重ねた。
スマホの明かりを当てた瞬間、驚愕した。
紙が新しく、文字はパソコンで打ち込まれた綺麗な文字だった。
追伸
大人になった村上、俺はお前と遊んだあの頃が一番楽しかったよ、あの事故で俺の見た目は変わってしまったけどな、実はあの事故はお前が悪い訳じゃないんだ。
ちょうどあの頃うちの親が再婚してさ、新しい父親が来たんだ、彼は俺のことが気に入らなかったのだろう、あの日俺を影から道に突き飛ばしたんだ、酷い話だろ。その後俺は母親の実家に引き取られ、お前と話も出来なかった。
両親のいない、いわば捨てられたも同じで過ごす日々は過酷だったよ。繰り返されるいじめ、死のうとも思った。
でもお前と遊んだことが支えになっていたよ、現実から逃げて逃げて、たどり着いたのが今の俺だった。考えるとそれも無駄ではない、なるべくしてこうなった。人生に無駄なことなんて何も無いんだ、両親に捨てられたことも、いじめられたことも、自殺しようとしたことも。だから今の俺は死ななくてよかったと思っている。
お前にもう一度会いたい。
死ぬことに比べれば、逃げるなんて容易いだろ?
死ぬ気になれば、何でもできる!
半身不随の漫画家、大人になった飯島より
名前の隣には、上林のデスクに置いてあるフィギアと同じ絵が描いてあった。
「飯島……お前」
立ち上がった俺は、家に向かった。
家族に俺の意見を
職場には退職を
言おう、ちゃんと。
そして飯島に逢いに行こう。
謝罪とお礼を言いに――――
――了――
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