33人が本棚に入れています
本棚に追加
ハァハァと息を切らすなしもっちゃんの黒いサラサラの髪が汗でしっとりと濡れている。
いつもの冷静な顔つきは何処へ行ったの?
何でそんなに焦った顔をしているんだ?
てか授業はいいの?
あ、もしかしてなしもっちゃんも体調悪いとか?
そんな色んな憶測が頭の中を巡っていた所で声が降ってきた。かなり緊張気味の上ずった声が。
「あ、あき……じゃなくて、」
いや、俺の名前は「あき 」で合ってるよ。なしもっちゃんにそう呼ばれた事はないけど。
「さ、さいと……」
「さいと 」じゃなくて「さいとう」ね。斉藤 昭 (さいとう あき)ね。
思い詰めた顔しちゃって一体どうしたんだ? そう言えばさっきもそんな顔をしていたような……
「えっと、どうしたの?」
「おまえさ……もう読んだ?」
今度は 「おまえ 」になった。読んだ? って、あぁ、漫画ね。
「うん。 読んだ。面白かった。今日さ……」
「マジか……てか面白かったって何だよ……」
え? ダメなの? 面白かったって感想じゃ足りない?
てかさ、俺風邪引いてるけどちゃんと約束守る為に来たんだって言いたかったんだけど……
そんな事より感想なのか? 感想……感想……
「えーっと、びっくりしたよ。まさかの展開っていうか……」
「だよな。そりゃ驚くよな……男だもんな……」
「うん。まさか……」
主人公が女じゃなくて男だったなんてね。そりゃ驚くよ。だってさ、今27巻なんだよ? こんなとんでもないエピソード、流石に引っ張り過ぎじゃないのって思ったよね。
「だよな……やっぱそうだよな……」
視線を外し、はぁ……とため息を吐くなしもっちゃんのメガネの奥に見える切れ長の瞳が潤んでいるように見えた。
なしもっちゃん……本当にどうした?
主人公が男だった事がそんなにショックだったのか?
いつもと違うなしもっちゃんの態度を不思議に思いつつ、沈黙も気まずいし何か喋らなきゃと思って口を開いた。
「けど、続きが気になる終わり方だったよ……だから……」
そう言いかけた所でなしもっちゃんの驚いた顔が、さっきまで逸らしていた視線が、俺に容赦なく注がれて……
注がれたと思ったら今度は何故かなしもっちゃんは俺の両手首を掴んで抑えつけていた。
最初のコメントを投稿しよう!