時を越えて続く未来

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夢で見た、雨に濡れる紫陽花と立派な洋館にそっくりな古びた建物。 そこで見つけた手紙…誰に宛てたものなのだろうか。 宛先は書いていない。 ふと振り返るとロングヘアーの黒髪のきれいな少女が立っていたーー。 高校3年生の雨宮朔は、いつもの帰り道を歩いていた。 朔は18歳になってから、繰り返し不思議な夢を見ていた。雨に濡れる紫陽花に、立派な洋館、白いワンピースの黒髪の少女。 誰かはわからないけど、不思議と懐かしい気持ちになっていた。 最近はその夢が気になって、受験勉強もそこそこに夢のことばかり考えていた。 そんなある日、ついウトウトしてしまい、電車を二駅ほど乗り過ごしてしまった。 (しまった!!) 朔は焦ってその駅で降りた。 よく見渡して見ると、周りは自然の多い小高い丘になっている住宅街のようだった。 季節は初夏でまだ日が高い。 朔は気分転換に少し歩くことにした。 10分ほど歩いた頃だろうか、紫陽花が植えられている通りに出た。 とても静かな住宅街。紫陽花は丘のずっと上まで続いていた。 朔は紫陽花に導かれるように、丘のずっと上まで歩いて行った。 たどり着いた丘の頂上には木々で囲まれた古びた洋館があった。雑草が生い茂っていたが、洋館の回りにも紫陽花がきれいに咲いていた。 (あれ…?この建物…どこかで…。) その建物は、朔が最近良く見る夢に出てくる立派な洋館にそっくりだった。 あの洋館が年月が経ち、朽ち果てたのかと思うほどそっくりであった。 朔は洋館の歴史ある雰囲気にも心惹かれた。 そして、なぜだかとても懐かしい気持ちになった。 窓が大きく中が良く見える。 少しだけある家具には白い布がかかっている。 今は誰も住んでいないようだ。 朔は玄関に回り込み、ドアを押してみた。 (あれ?鍵がかかっていない?) 朔はそのドアから中に入っていった。 ひとつひとつの部屋を見てまわる。 豪邸とも言える立派な作りに朔は夢中で進んで行く。 荒らされた様子はないが、ほこりがかぶっていた。 (人が住まなくなってから、どのくらいの年月が立つんだろう…。それにしても懐かしい感じがする…不思議だな。あの夢で見た建物と同じだ。) そして、あるひとつの部屋で朔は足を止めた。 淡いピンク色の小花柄のきれいな壁紙、装飾の施された白い家具。 年月が経ち、古びてはいるが、ここはいつもあの夢に出てくる黒髪の少女がいる部屋にそっくりな雰囲気だった。 夢に出てくる少女はいつも机の側に立っていた。 その机にそっくりな机があった。 朔は気になって、机の引き出しを開けて見た。 中には一通の手紙がある。大事にきれいに置かれていた。 長い年月、そこにあったのか、真っ白であったと思われる封筒は茶色くなっていた。 でもまだ読めそうだ。 「宛名がない。誰への手紙だ…?」 朔はそう呟くと、後ろに気配を感じて振り返った。 そこには背中まであるきれいなストレートヘアの黒髪に、白いワンピースを着た、色白の美しい少女が立っていた。 あの夢で見る少女にそっくりだ。 同じぐらいの年頃だろうか。 不思議と懐かしい、けれど少し悲しみを感じた。 朔は驚きながら言った。 「勝手に入ってごめん!夢で見た建物にそっくりで、それに懐かしい感じがして、気になってしまって、つい夢中で…」 すると少女は微笑みながら言った。 「ふふ。いいのよ。来てくれてうれしいわ。その手紙は大事な人への手紙よ。でも渡す前に…。」 そう言いかけて悲しそうな顔をした。 「この手紙は、君の…?君はここの家の子なの?」 「ええ、そうよ。」 「俺は雨宮朔。君は?」 「…朔、会いたかった。ずっと。私のこと、忘れちゃったわよね?」 少女が朔を見て嬉しそうな顔をしたが、少し悲しそうに聞いた。 「え?僕たち、会ったことあるの?」 朔は夢の中でそっくりな少女を見たが、まさか本人のはずがあるわけないと思った。 「ううん…なんでもないわ…。私は小鳥遊 紫野よ。朔、その手紙、読んで見てくれない?」 そう言いながら、紫野は朔に微笑みかけた。 「え…?うん。でも本当に俺が読んでもいいの?」 朔がそう言うと紫野は頷いて、部屋を出て行った。 雨宮 龍太郎様 いつもわたくしに会いに来てくれてありがとうございます。 ですが、わたくしはもうあなたに会うことは出来ません。 伝えようかずっと迷っておりましたが、わたくしはずっとあなたさまのことをお慕い申しておりました。 これからもずっと、その気持ちは変わることはありません。 永遠に、愛しています。 小鳥遊 紫野 「これ、古風だけど、なかなかいいんじゃない?ねぇ、自分で渡してみたら…ってあれ?」 気がつくと、紫野は居なくなっていた。 朔は手紙を持ったまま周辺を探したが、紫野はどこにも居なかった。 (なんだ?先に帰ったのか?変なやつだな。 あっ手紙…持って来ちゃった。まぁいいや、次来た時に返すか。) 朔は不思議に思いながらも、そのまま帰宅した。 手紙が気になり、もう一度読んだ。 (それにしても、こんな古ぼけた手紙、本当にあの紫野って子が書いたのか?それに、この手紙に書いてある「もう会えない」ってどういうことだ?引っ越しでもして来たのかな?この手紙は一体…でもなぜだろう。やっぱり懐かしくて、見たことのあるような文字に感じる。) そして、朔は手紙を手に持ったまま眠ってしまった。
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