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「雨宮さん、こちら新しく入った子で、雨宮さんのファンなんだ。よろしくね。」
店長が朔の元へ来て、新しい店員を紹介した。
黒髪が美しい、まだ若い女性だ。
「はじめまして!私、雨宮さんの建築が紹介された本を見てから、雨宮さんのファンなんです!特にこの喫茶店は素敵ですよね!よろしくお願いします。」
その女性は朔を見ると、嬉しそうに挨拶した。
「あと、私も紫陽花が大好きなんです!」
そう言うと、朔の顔を見てにっこり笑った。
「一雨来そうだな。さっきまで晴れてたのに。」
店長はそう言うと、中に入って行った。
ポツポツと雨が優しく降りだした。
テラス席にいた他の客は、みんな室内に入って行った。
朔とその女性は、なぜか二人、雨の降る空を見つめていた。
「私、雨も好き。雨の日の紫陽花は特別な気がする。懐かしい、何でだろう。前にも…ずっと前にもこんな風に見ていた気がするんです。」
女性が懐かしそうに言った。
そして、ふとびしょ濡れになったお互いを見つめ合い、笑った。
「この喫茶店と紫陽花の話をしませんか?」
朔が女性にそう言うと、女性は笑顔で頷いた。
「二人とも、ずぶ濡れじゃないか!タオル、タオル!さ、中に入って。」
店長にそう促されて、二人は室内に入って行った。
空には虹がかかり、紫陽花を濡らした雨の雫はキラキラと輝いていた。
今度は嬉し涙のように。
二人を祝福するように。
これから始まる。やっと一緒に…。
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