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「朔!朔!!」
朔の母親が叫んでいた。
気がつくと、朔は病院のベッドにいた。
あの洋館の外に倒れていた所を、洋館の手入れに来た所有者に発見されたらしい。
なかなか目を覚まさない朔を心配した洋館の所有者が、病院に運んだらしい。
「もう、この子は学校サボってなにしてるの!!」
「母さん、ごめん、あそこに紫野って子いたでしょ?その子に朝食をごちそうになったんだ。それから眠ってしまって。」
「何寝ぼけたこと言ってんの!あそこは今は空き家になってて、こちらの小鳥遊さんが管理されてるんだよ!鍵だってかかってたでしょ!」
「え…?鍵は空いていたし、小鳥遊 紫野って言う女の子がいたんだよ。」
「もう、寝ぼけちゃって。ばか息子がすみません。」
朔の母親がそう言うと、洋館の所有者であるという小鳥遊は笑っていた。
優しそうな初老の男性だ。どことなく、紫野にも似ていた。
(紫野のおじいさん?)
そう思いながら、朔がこの状況に驚いていると、その初老の男性はにっこりと微笑みながら話し出した。
「息子さんが気がつかれて良かった。私はあの洋館の所有者の小鳥遊といいます。あそこは、私が子供の頃まで先祖代々で住んでいたんです。今は古くなって誰も住んでいませんが、たまに私が来て手入れをしているのですよ。」
「…小鳥遊紫野って女の子、俺と同じぐらいの年の。孫ですか?」
朔が、紫野は絶対にあの場所にいたはずと思い、訪ねた。
「私にはまだ孫がいないんですよ。でも、たかなし、しの…しのって名前はどこかで。うちの親戚かもしれません。」
何か思い当たる様子で、小鳥遊が答えた。
「こら、朔!いい加減にしな!」
朔の母親があきれながら言った。
不思議なことに、どうやらあそこはこの小鳥遊という男性が管理していて、きちんと鍵もかかっていて、今は全く使われていないらしい。もちろん、電気や水道やガスも通っていない。料理など出来るはずもなかった。鍵もかかっていたのだ。
(そもそも鍵がかかっているのに、なぜ俺はあそこで料理を食べたんだ?紫野はどうやって入ったのだろう。)
「まあまあ、お母さん、息子さんも嘘をついているようには見えませんし、ここはひとつ、私が小鳥遊家の家系を調べて見ましょう。しの、という名前は聞き覚えがありますし。」
小鳥遊は朔の母親をなだめるようにそう言った。
「まぁ、本当にすみません。ほら!朔もお礼しな!」
母親も、朔の様子が真剣だったので、不思議に思いながらも小鳥遊に調べてもらうことに同意した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
朔がそう言うと、小鳥遊はにっこりと頷いた。
そして、現在の住まいの都心部にあるマンションに帰って行った。
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