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家に帰ると、朔はあの手紙を開き、部屋で一人考えていた。
紫野は確かにあそこにいた、あの洋館で朝食を食べた。
それは夢じゃない、間違いない。
夢の中で、紫野は朔のことを龍太郎と呼んでいた。
「龍太郎」とはこの手紙の「雨宮龍太郎」のことか?
それはもしかすると、自分の先祖なのでは?
しかし夢の中で、朔は確かに自分は龍太郎だという気がしていた。
そして、紫野のことを知っていた。
考えても考えても、答えはわからなかった。
朔は父親に、先祖に雨宮龍太郎と言う人物はいないかと訪ねてみた。
「…雨宮龍太郎?ああ、知っているよ。父さんの曾祖父の兄に当たる人でね、医者になってたくさんの人を救った立派な人だよ。」
父親が誇らしげに答えた。
「へぇー、家の家系にそんな立派な人がいたのねぇ。昨日も飲んで来て、おこずかいが足りない子孫もいるってのに。」
母親が父親に皮肉混じりに言った。
「まっ、まあな。雨宮家の誇りみたいな人だったらしい。父さんが子供の頃に、良くじいちゃんに聞かされたもんだよ。だからおまえもしっかりやれと言われたよ。はっはっはっ。」
父親はバツが悪そうに笑いながら言った。
「ねぇ、その雨宮龍太郎の奥さんって、紫野って人?」
朔が訪ねると、父親が答えた。
「いや、龍太郎さんは独身だったみたいだよ。仕事が忙しかったのかなあ?でもどうして、そんなことを?」
「いや…なんでもない。」
そう言うと朔は部屋に戻って行った。
(雨宮龍太郎は実在していた。紫野はやっぱり、龍太郎の恋人なのか?でも昔の人だ…。俺の前に現れたあの紫野は…夢の中の紫野は…一体誰なんだ。)
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