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その夜、朔はまた紫野の夢を見ていた。
いつものように、まだ新しくきれいな洋館にいる紫野に会いに行く朔。
しかしこの日は紫野に会えず、家族には「流行り病にかかったので、しばらく会いに来ないでくれ。」と言われてしまう。
家族に頼み込んで、ドア越しで紫野と話すことを許してもらう。
こんな日が数日続いたある日、紫野が言った。
「ごめんなさい。私はあなたにもう会えません。もう…来ないで…龍太郎さん…。」
紫野は泣いているようだった。
「龍太郎さん、ごめんなさい…私は…もう…。」
龍太郎…その名前を再び聞き、朔が叫んだ。
「また…!!龍太郎って誰なんだ!!俺は、俺は…!」
朔は少し混乱した。
自分が龍太郎でもあるような気がしていたのだ。
「あなたよ、龍太郎さん。あなたは龍太郎さん。私の大切な人…。」
その時、朔の遠い記憶が甦った。
「紫野…俺が、俺が必ず紫野を治す!!俺が医者になって、紫野を!だからもう少し、もう少しだけ…紫野…。」
「ありがとう、龍太郎さん。待ってるね。ずっと…ずっと。」
紫野と龍太郎は泣いていた。
ドアごしに、お互いの手と手を合わせ泣いていた。
けれども、その数日後に紫野は…。
その日は雨がしとしと降り続けていた。
紫野が好きだった紫陽花が雨に濡れていた。
とても悲しく、けれど、とても美しかった。
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