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そこには庭に面した大きなベランダの窓を開ける、所有者の小鳥遊が立っていた。
「朔くん?良かった!会えて!さっき家に電話したら、出掛けたと聞いて。もしかしたらと思って来てみたんだ。」
小鳥遊は笑顔でそう言うと、朔を洋館の中に招き入れた。
そして、朔に古びた日記帳を見せた。
「この日記帳は私の祖母の姉のものでね、このページ、読んでみてごらん。」
小鳥遊はそう言いながら、朔に日記帳のページを開いて手渡した。
○月○日
紫野がいなくなってから、3年の月日が立つ。
やっと少しだけ紫野の物を整理することが出来た。
机の中に紫野が龍太郎さんに書いた手紙があった。
渡せないままで紫野は…。
この手紙は龍太郎さんに必ず届けたい。
○月○日
紫野の手紙を渡すため、龍太郎さんを探したが未だ見つからず。
紫野がいなくなったあと、龍太郎さんは学問のためにこの地を離れたらしい。
家族にも学問のためとしか伝えずに…。
元気でやっているのだろうか。
手紙は紫野の部屋の机に保管しておこう。
いつか龍太郎さんに会える日まで。
「これ…!!あの、この手紙、洋館の中で見つけたんです。」
日記を読んだ朔は、あの手紙を小鳥遊に見せた。
「この手紙のことだったのか!この日記によると、紫野さんは私の祖母と姉妹だったみたいだね。でも、不思議だねぇ。紫野さんに会ったなんて。ここは鍵をかけてあるし、誰も入った形跡もないというのに。まるでタイムスリップでもしたみたいだね。ここを離れる時も荷物の整理をしたはずなのに。古い家具に入っていたのかな?はっはっは。」
不思議に思いながらも、時を越えた小さなロマンを感じ、小鳥遊は笑っていた。
そして、すべてを悟ったように朔を見てこう続けた。
「この手紙、もしかしたら…時を越えて届いたのかもしれないね。そのために、紫野さんは雨宮龍太郎さんに会いに来たのかもね。」
朔は、やっとこの不思議な状況を理解した。
(紫野…この手紙を渡したくてずっと待っていてくれたのか?)
「さて、私は庭の雑草を取って、外を掃除して来るとしよう。朔くんはゆっくり屋敷の中を見学して来なさい。」
小鳥遊はそう言うと、庭へ出て行った。
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