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窓を開けて室内の淀んだ空気を押し出し、私はようやく人心地ついた。
祖母の遺品整理のためにと言われてやってきたものの、半日格闘してようやく一階が半分ほど片付いた程度だ。
いくら田舎の一軒家といえ、老人がひとりで住むには大きすぎる。
そんな広すぎる空白を少しでも埋めようとしたのだろうか。
祖母の家は家具や日常の小物、古びた雑誌に壊れた家電といった私物で散らかり放題に散らかっていた。
大学の夏季休暇で暇を持て余していたから二つ返事で引き受けたものの、本格的に手を入れるなら、両親も引っ張って来なければとうてい覚束なさそうだ。
「…………ふう」
凝り固まった肩を解しながら、私は仏壇のある和室を見渡した。
祖母が寝起きしていたのはこの部屋らしく、納戸に擦り切れた布団が押し込んである。
その下の段に、これまた古びたつづらがぽつねんと置かれていた。
細かいものは後回しにしようと思って放っておいたのだけれど、休憩がてら居間に持ち出すことにした。
ペットボトルの麦茶を飲みながらそっと蓋を開けてみれば、中身はぎっしりと詰まった便箋の数々だった。
後生大事に仕舞ってあるくらいだから、思い出の品か、もしくは重要な手紙なのだろう。
中を読むのは気が引けるけれど、そのまま燃やしてよいのかもわからない。
いっそ持ち帰って母に任せようかと思っていると――不意にインターホンが鳴った。
慌てて手紙を置いて玄関に降りると、中年の女性が怪訝そうな顔で立っていた。
彼女はあたふたと出てきた私を見つめ、それからはっと気づいたように手を打った。
「ああ、お孫さん」
私がそうですと首肯すると、
「ごめんなさいね。なにかあったのかと思って」
近隣の住人だという彼女は、犬の散歩がてら通りかかり、換気のために開けっぱなしだった表を見て不審に思ったのだという。
「御気の毒にねえ。ついこの間まであんなに元気だったのに」
祖母は朝夕に近在を散歩する習慣があったそうで、彼女ともよくすれ違って挨拶を交わす仲だったそうだ。
「この子をね、とってもかわいがってくれて」
毛玉のようにふわふわしたトイプードルを抱きかかえ、女性は懐かしがった。
一人暮らしですから、きっと寂しかったんでしょう。
私がそう言うと、女性はかかえた犬と同じくらい目を丸くした。
「あら。でも、旦那さんと暮らしていたんでしょ? そう言えば、お通夜でも見かけなかったけれど、お爺さんのほうはお元気なのかしら」
今度はわたしがきょとんとする番だった。
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