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数日後、スナック花弁は営業をしていた。
いつものようにお客たちが来店している。江松たち、常連も勿論いた。
「もう、翔子ちゃんがいなくなって、数日が経つんだね」
江松が言うと、他の常連たちも、頷いた。重い空気になりそうになっているのに気が付いた喜美ママが、スマホを取り出し、
「何、暗くなってるのよ。見て、これ。翔子、笑ってるでしょ? みんなにいつまでも悲しんで欲しいなんて、あの子は思っていないよ。みんなの中の翔子はそんなつまらない女だったの?」
と、一喝すると、お客のひとりが自分のスマホを取り出し、最期のスナックに立っていた時に撮ったツーショット写真を見た。
「本当だ。翔子ちゃん、可愛く笑ってる。江松さんも見てみなよ」
言われて、江松もスマホの写真を見た。そこには、昔からある笑顔の翔子がいた。
「本当だ。翔子ちゃんは、変わっていない。また、ここにふらりと戻ってくるようだ」
そう言うと、皆、涙を堪えながら、声を噛み殺すと、喜美ママが、
「翔子はまた帰ってくるわ。あの子、この店、大好きだから。だから、毎日、ちゃんと来てね。翔子がいつ戻ってきても良いように」
ママが言うと、お客たちは、
「ああ! じゃあ、今日も飲もう! ママ、グラス空いてるよ、飲みな!」
「頂くわ! 江松さん、ピンドン、卸してくれていいのよ!」
「はは、じゃあ、ピンドン飲むか!」
あはは、と優しい明かりに照らされた空間に、笑い声が響く。
ふと、ママはカウンターの端に目をやる。そこには翔子がいつものように笑顔で接客している風景が浮かんだ。
皆は、翔子という笑顔の天使に出会ったのだった。
<了>
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