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それから、甲斐なく、翔子は亡くなってしまった。
突然の死だった。
あれだけ、スナックで元気にしていた翔子だったが、体調の急変で、亡くなってしまった。
スナックの常連には、ママが連絡して、お通夜が行われることも伝わっていた。
本当は家族だけでひっそりと行いたいところだったが、翔子が最期に大好きだった人たちに会いたいだろうと考慮した結果、葬儀は大々的にすることにしたのだった。
お通夜の日。
喪服姿のママに、スナックの常連客たちが挨拶に来た。
江松たちがぞろりと受付にいたママに声を掛けた。
「ママ……。この度はご愁傷様でした」
潤んだ瞳を隠し切れない江松たちは、涙を啜って、頭を下げた。
「ありがとうございます。最後にみんな、翔子に挨拶してやってください」
言って、祭壇の方へ案内すると、焼香をお客たちが済ましていく。
それから、ママが棺桶に入っている翔子の顔を開けてやった。
開かれると、血色の良い化粧を施された翔子が、安らかな顔をして横たわっていた。
「翔子ね。実は、一次退院できる状態じゃなかったの」
ママが言う。すると、驚いてママの顔を見つめるお客たち。江松が、
「じゃあ、なんで、あの日、無理に働いていたんだよ。ダメじゃないか、止めないと……」
言うと、ママはかぶりを振って、
「命が残り少ないなら、私の傍で、働いて、それから花弁に来てくれるみんなと一緒に時間を過ごしたいって言ったの。夫や娘と時間を共有しても良かったのに、そうじゃなく、店を選んだのには、あの子なりの理由があったの」
「家族より、スナックを選んだわけってなんだよ」
泣いて、ハンカチで目を押さえている江松の問いに、ママは翔子の顔を撫でながら、
「翔子は、生まれたときから、私がスナックに立っていたのを見てきてるから。それに結婚する前からずっとみんなのこと、知ってるでしょ? あの子は、自分のルーツがそれだからって。自分をここまで立派にしてくれたのは、みんながいたからって……。だから、最期に、みんなと同じ場所で、笑っていたかったんだって……。そこまで言われたら、断れなかった」
喜美ママがそこまで言うと、その場で手をついて頭を下げ、
「本当に、翔子のことを、実の子のように接してくれて、本当にありがとうございました。あの子も悔いなく、天国に行けると思います」
ママが言うと、その場にいるお客たちは大の大人とは思えないように、大粒涙を声を上げながら泣いていた。
それから、翌日に葬儀も行われ、翔子は天国へと旅立って行った。
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