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胸中
居るだけで良いとは、便利な言葉だった。何かにつけてその言葉を使われた。聞いている方の心持ちなどさっぱり理解していないのだろうし…
「殿は居るだけで良いのです。」
何もするなと言わんばかりの意味なのだろうか?目の前には、温かさ等微塵もない景色が広がっていた。その光景が…あの時と重なっていた。
風花…身も引き締まる極寒の晴れた朝、風が雪を巻き上げる光景の事である。
「風花の話をしたら、その厳しさこそ風流だと!笑われたのよ、彼処も雪は降るらしいからな…。」
めったにしなくなった父親の話を、大殿はポロリと溢した。江戸詰めと言って、大名の奥さんと子供は、江戸屋敷に、人質として止めおかれる。一生自分の国を知らないまま終わる殿様も居るのだった。
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