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一. はじまり
余りの醜さに、俺は目を背けた。
――本当に、これが、俺なのか――
顔を深い闇の底へ向けたまま、俺はもう一度、正面へと斜視だけを注ぐ。
そこには一枚の鏡が立ててある。
縦長の四角い姿見だ。
銀色の枠には何の飾りもない。
その突き放した冷厳なたたずまいが、俺を畏怖させる。
そんな俺の霞んだ目に映るのは、俺の鏡像だ。
悍ましくも汚らしい、不潔な緑色に変わり果てた面の皮。
鼻はもげ落ちて、汚らしい二つの孔が空いているだけだ。
唇も腐ってなくなってしまったのか、黄色いむき出しの歯が並んでいるのが、どうしようもなく気色悪い。
そしてそんな有様を小心に窺う丸い眼玉には、もう瞼と呼べるものは残っていない。
思わず鏡に伸ばした指も、骨の上に生乾きの皮をぎちぎちに張ってあるような、悍ましい代物だ。
それなのに、俺の息も鼓動も、何の反応も示してくれない。
肺も心臓も、沈黙したまま微動だにしないのだ。
……腐りはてた死体。
どうやら、それが今の俺らしい。
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