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「まあ何とか誤魔化せちゃうかもね」
ふふーん、と少女特有の甘い笑いを洩らしたユディートの前で、女医ハーネマンが俺の顔に真新しい包帯を巻いてくれる。
まあ、どうせまたすぐに、包帯は顔の腐肉に貼り付いてしまうとは思うが。
手当を続けながら、ハーネマンがユディートに聞く。
「それはそれとして、このひとの名前くらいは、何とか分からないかしら? このひとを何て呼べばいいのか分からないのは、不便だもの」
「別に『屍者(エシッタ)くん』でいいと思うけれど」
「でもそれじゃ屍者だってみんなにばれちゃうでしょ? 私が『診断書』を出す意味がなくなっちゃうわ」
揶揄するようなユディートをハーネマンが穏やかに諭す。
まるで仲の良い姉妹のようだ。
……彼女たちは、この花街の娼婦たちの心と体を、マイスタと三人で支えているのだ。
やはり深い絆があるのだろう。
つい微笑ましくなった俺の顔だけでなく、両腕にも両脚にも包帯を巻き終えて、ハーネマンが俺の全身を改めて見回した。
「何かこのひとの身元が分かるものがないかしら……」
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