一. はじまり

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 鏡面一枚を隔て、腐乱した顔と見つめ合うばかりの、呆けた俺。  その姿見の裏側から、若い女の含み笑いが聞こえてきた。 「どう? 気に入って頂けたかしら?」  楽しさを隠そうともしない言葉と同時に、鏡の裏側から誰かが姿を現わした。  頭のてっぺんからつま先まで、黒いローブで全身をすっぽりと覆い隠した人物。  目のところに空いた横長の切れ間から、ガラス玉のような目が俺を見ている。  瞬き一つせずに。 「オ、マエ、ハ……!?」  俺は固まった肺と気管をやっとの思いで膨らませ、たった一言の問いを絞り出した。  しかしその声は、まったく色を持たない木枯らしのようだ。    哀れなその声色を、そのローブの女は高く澄んだ声で嘲笑する。 「素敵な声ね。でもそんな体でまだ声が出せるなんて、驚きだわ」  わずかな間をおいて、女が冷淡に告げる。 「まあいいわ。あなたは、これから旅に出るの。贖罪の旅に」 「ショク、ザイ……?」
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