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一つは、タダイの処断を留保したことだ。
本来なら、敵方との内通者は発覚したその場で首を刎ね、見せしめに晒さねばならない。
しかしタダイは若過ぎた。
その若さと純粋な恋心に幻惑された俺が、愚かだったのだ。
もう一つ、俺がマノ大尉を説得しきれなかったことが、俺の二つ目の過ちだった。
タダイの告白を受けた俺は、事情を伏せたままタダイの身を小隊長に預け、マノ大尉を訪ねた。
やはりタダイのことは隠し、マノ大尉には、どこからかマルーグ城砦陥落計画が洩れたこと、この計画は中止すべきことだけを進言した。
だがマノ大尉の答えは否だった。
理由は、何も行動を起こさずに撤退するなど、計画参謀が許さないこと。
またマルーグ城砦に常駐する兵は三百人と、計画大隊の半分以下に過ぎず、数の上ではこちらが有利だったこと。
さらには豪商マイリンク商会とのつながりができていて、兵站の心配をせずに攻城戦に持ち込むこともできること、だった。
しかしマノ大尉にとって、一番大きな理由は作戦参謀の存在だったのだろう。
何しろ、このマルーグ城砦陥落計画を立案した参謀、ベロッソ=ルッカヌス=マノは、彼の父親だったのだから。
父親が自分のために立てた計画だ。
すでに準備も整ってしまっている今、何もしないままおめおめとミロに帰ることは、自分のみならず、父である参謀の立場も危うくすることになる。
……結局、俺はマノ大尉を引き留めることができないまま、計画は決行されたのだ。
幾つもの失敗の種を抱え込んだままに。
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