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湧き上がる自嘲的な苦笑を、俺は胸郭の内側へと溜め込む。
カイファが低く抑えた口調で、そんな俺に囁くように、確かめる。
「……どうしましょうか? あなたがカルヴァリオ隊長だということは、伏せておいた方がいいですか? それとも……」
思慮に富んだ聞き方だ。
さすがと言うべきか。
俺はかすかにうなずいて見せる。
「伏セテ、クレ……。折リヲ見テ、俺ガ、言オウ……」
「分かりました。お任せします。あなたのことは、今までどおり『マノ』さんとお呼びしますね」
応えたカイファの顔に、固い微笑が浮かんだ。
……今この街に、灰燼に帰したというケルヌンノスの住民がどれだけいるのか、それは分からない。
だがそのケルヌンノスを守るはずの山岳猟兵がマルーグ峠で全滅し、ケルヌンノスは守備するもののないままに、焦土と化したのだ。
今さら、山岳猟兵の隊長だけがおめおめと名乗り出たところで、一体誰が快く受け容れるだろう……?
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