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すると、暗闇の中にポッポッと淡い光の玉が、いくつも浮かび上がった。
青、黄色、緑、白、それに赤。
色とりどりの光の玉だが、今の俺には分かる。
これは、死者たちの魂、”鬼火(ウィル・オー・ザ・ウィスプ)”というやつだ。
つまりは、今の俺と同類……。
その鬼火たちが、俺の腐った体にわらわらと群がってきた。
そうして無数の鬼火が俺から離れたとき、俺の全身は朽葉色のマントに包まれていた。
俺はもう一度、姿見に向き合う。
ゆったりとした、ポンチョのようなマント。
大きなフードもあって、女が言う『汚らしい顔』も、隠すことができそうだ。
いうことを聞かない両手でフードを被り、俺は鏡に映った胸元に目を止めた。
丸い大きな留め具が鈍く光っている。
ブローチを思わせる、しゃれた留め具だ。
……どこか見覚えのある気もするが、俺の記憶は霧がかかったようにぼんやりとしている。
俺が瞼のない目を凝らせた途端に、姿見は音もなく消え去った。
「それは私たちからの餞別。さあ、もうお行きなさいな。起き上がって、因業(カルマ)の呼ぶ方へ」
「オマエハ、ダレ、ダ……?」
俺が再び吐き出した問いに、女が無感情に答えた。
「私はパペッタ。“久遠庵(カーサ・アンフィニ)”の主よ。私たちは、アリオストポリのお店でお待ちしているわ。あなたの到着を、ね……」
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