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不穏な会話を交わしながら、冒険者どもがこの大岩の周りをしつこくうろついている。
と、いきなり俺の首筋に違和感が走った。
ぐりぐりと、何か細く鋭い物が首の中へと刺し込まれてくる。
……槍だ。
ご丁寧にも、冒険者が俺の隠れた岩の間に、手槍をねじ込んできたらしい。
だが今の俺には痛みは無力だ。
しかも上げる声さえない。
……死んだ体で良かった。
すぐに槍は引き抜かれ、不審そうな男の声が聞こえた。
「……いないか。まあ仕方ない。始末しておいた方が無難だが、人里は遠い。放置してもそれほどの危険はないだろう」
「そうよね。日が暮れるまでには、ルディアの街に着きたいわ。ベッドでゆっくり寝たい」
「ああそういや、ルディアにはいい花街があるんだよな。久しぶりに気持ちいいことしてえ……」
「女の前でそれ言う? まったく、これだから男って生き物は……」
「まあそう言うな。とにかくルディアはここから道沿いに二時間くらいだ。急ごう」
くだらない話をしながら、冒険者連中は大岩から離れていった。
奴らの足音も気配も消えてから、さらに時間をおいて、俺はずるずると岩の間から這いずり出た。
辺りはもう黄土色の斜陽に包まれている。
人の姿はない。
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