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山道を彷徨ううちに、不覚にも流しの冒険者たちに見つかってしまった。
連中からすれば、今の俺はいい獲物だ。
腕試しにもなるし、酒場でのちょっとした武勇伝や名声にもつながる。
しかし距離があったため、追い付かれる前に岩の間に隠れ、何とか連中をやり過ごした。
だが冒険者など、世間ではありふれた連中だ。
これからも幾度となくこういう目に遭うと想像すると、先が思いやられる。
パペッタの嘲笑めかした忠告『退治されないように気を付けろ』。
それが、今さらながら身に染みた――
そこまで思い返し、俺は滲み出る腐汁に塗れた両手で、髪もまばらな頭を抱える。
……『贖罪』、とはどういうことだ?
俺が何をしたというのか……?
俺はさらに記憶を辿る。
あのパペッタに逢った暗闇のその前に、俺の知りたいことがあるはずだ。
それなのに、思い出すことができない。
鏡で死体の俺と対面した、その時以前の俺を。
霧がかかっているとか、見えない壁があるとか、そういう感覚とは違う。
……空隙なのだ。
あたかも俺など存在していなかったかのように。
だから糸口さえ掴めないのだ。
俺が本当は何なのか、俺の名前さえも。
それだからこそ、行かなくてはならない。
女屍霊術師パペッタの待つ、アリオストポリの久遠庵へ。
自分の体と、自分自身を取り戻すために。
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