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四.審問
一
揺らめく灯火に照らされた、白鷺庵のサロン。
テーブルを挟んだ向かいのソファーから、若い商人カイファがうなだれた俺を見つめている。
俺から翡翠の眼差しを逸らさずに、彼が静かに問うてくる。
「カルヴァリオ隊長、なんですよね……? トバル=ルッカヌス=カルヴァリオ隊長。生きていたんですね……?」
俺はわずかに眼球を上げ、カイファの表情を窺う。
彼の顔に浮かぶのは、一抹の懐かしさと、深い憐憫の情、そして自らへの悔悟の念だ。
瞼のない眼球を上目遣いにカイファへ注ぎ、俺はかすかな仕草でうなずく。
……記憶のほとんどを取り戻した今、カイファの問いを否定はできない。
俺はトバル=ルッカヌス=カルヴァリオ。
ケルヌンノス山岳猟兵を束ねる隊長であり、マルーグ城砦陥落のためのマノ大隊第三中隊長。
そして、その大隊潰滅を招いた男だ。
死んだ体に魂がある以上、生きていると言えるかどうかは、微妙な状態だが……。
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