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「そんなのどうでもいいだろう。ほら真面目に仕事しろ」
信孝は照れ笑いを浮かべながら、集まってきた部下に持ち場に戻るよう指示した。
「奥さんと仲が良くて羨ましいです」
「尻に敷かれているだけだよ」
苦笑する信孝。遥に書類の束を渡すと入力しておくようにと指示し自分のデスクに戻った。
ブルブルとスマホが振動した。直矢からの着信かと思い画面に目を向けると、非通知の電話だった。
遥の脳裏にニタニタと薄笑いしながら自分を見下ろす九鬼の顔が浮かんできた。
寒くもないのにガタガタと身体が急に震え出した。
忌まわしい記憶を今すぐに消したい。そんな思いに駈られすぐに着信を拒否した。
自宅アパートの前に黒いフィルムを貼った黒塗りの高級外車がエンジンを掛けたままの状態で停車していた。皆、目を反らし足早に車の前を素通りしていた。
関り合いを持ちたくないのは誰でも同じだった。
「直矢、今どこ?」
物陰に身を隠し小声でスマホに話し掛けた。
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