直矢の過去

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直矢の過去

直矢は母子家庭で育った。小学校に入学した年に母を不慮の事故で失い、母の弟だった遥に引き取られた。 実の父の実家が鷲崎組だと判明するまでの約十年間、力を合わせ互いに寄り添いながら生きてきた。 実の父が誰だろうと、直矢の父は遥ただ一人。ずっと遥を独り占め出来ると信じて疑わなかった。 それなのにーー 高校が夏休みに入ったその日。 伯父の鷲崎覚(わしざきさとし)に広間に来るように呼び出された。 「直矢、単刀直入に聞く。遥が好きか⁉」 座るなりいきなりそう切り出され返す言葉を失う直矢。 「お前を見てれば誰だって気付くさ。俺は男同士の夫婦なんて絶対に認めない。ましてや、お前ら仮にも親子だろう」 直矢は呆然としながらも、覚を睨み付けた。 「あなたに何が分かるんだ!」 今は亡き弟の若い頃に瓜二つなその相貌に、覚はしばし見入ってしまった。 「まぁ、いい。とにかく遥と吉柳会の幹部の一人娘を結婚させる。これは決定事項だ。分かったな直矢」 「俺は絶対に嫌だ!」 直矢は最後まで首を縦に振らなかった。 「ねぇ、ねぇ直矢。お盆休みどこ行きたい⁉」 襖戸がすーと音もなく開いて遥が中に入ってきた。栗色の癖っ毛に、目がくりくりとした、どちらかといえば中性的な顔立ちをしている遥。身長が低く童顔のせいか到底32才には見えない。 「ねぇ、ねえってば」 机に向かい勉強をしていた直矢の服をツンツンと引っ張る遥。 「この計算式だけ解かせて」 「直矢はパパが嫌いなの⁉」 急に涙目になる遥。 「嫌いな訳ないだろ。あと一分だけ待って」 「うん‼」 満面の笑みを浮かべる遥。 この人は俺がいないと何も出来ない。 家事、炊事、それに…… 「そう言えば、伯父さんから聞いたんだけど、パパ結婚するの⁉」 遥の反応を見るためわざと意地悪な質問を投げ掛ける直矢。 「えっと・・・・・」 恥ずかしさで顔を真っ赤に火照らせ、もじもじと腰を揺らしながら、かなり動揺していた。
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