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『そうか、残念だな』
薄ら笑いを浮かべると、すっと立ち上がり遥の首根っこを掴むと、隣の部屋の襖を荒々しく開け、中に放り込んだ。
「鷲崎さん、話しが違う」
『九鬼さんがお前にご執心なんだ。一回くらい相手をしてやれ』
薄暗い部屋の奥から半裸の九鬼がぬっと姿を現した。
長年九鬼総業の組長の側に仕え、一回りも年下の長女と結婚し婿養子に入った九鬼。齡50を過ぎても性欲が衰えることはなく妻に隠れ男女問わず多くのイロを囲っていた。
「イヤだ‼」
ぶんぶんと大きく頭を振り何とかしてこの場から逃げ出そうと試みた。
だが、簡単に腕を掴まれ、強く引き寄せられ真新しい布団の上に押し倒されるまであっという間だった。
「・・・・さ、九鬼さん‼」
そのままのし掛かられ声が上擦った。
『俺から逃げられると思うのか⁉』
酷く冷たいーー残酷な笑みを湛え見下ろされ、背筋がぞっと寒くなった。
『遥、良かったな。初めての相手が九鬼さんで。名誉なことと思い、閨の作法を手取り足取り教えてもらえ』
鷲崎はそれだけ言うと襖を閉めてしまった。
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