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血の繋がらない父と息子
「おう、直矢」
「父が面倒をかけてすみません」
付き合いとはいえ呑めない酒を無理して呑んで、酔いつぶれた父を迎えに行くのが息子直矢の役目だった。駅前の大通りに面した居酒屋を出ると、夏祭りの目玉である躍り流しの真っ最中で通りを沢山の見物客が埋め尽くしていた。
「なおや・・・ごめんね・・・」
「別に気にしていないよ」
とはいえ酔っ払った父を抱え、前にも後ろにも進めず仕方なく脇道へと入る直矢。大通りの喧騒が嘘のようにそこは静まり返っていた。この先って確か・・・見るからに怪しい店が軒を連ねているんだった。ラブホも何軒かあるし。チラッと父に目を遣る直矢。その時ドンと二人にぶつかってくるガタイのいい大男。
「どこ見て歩いてるんだ‼ちんたらしてるんじゃねぇよ‼」
自分からぶつかって来た癖に、ぶちギレて辺り構わず怒鳴り散らす男に、直矢は表情一つ変えず、逆に睨み返した。
「なんだその態度。俺を誰だと思ってるんだ。吉柳会の吉井だぞ」
吉柳会はここ一帯を縄張りに持つ、広域指定暴力団。相手がヤクザだと知ってもなお、直矢は顔色ひとつ変えなかった。
「だから何ですか?」
「はぁ!?」
素っ気ない直矢の態度に男の怒りは沸点を越えた。歯を剥き出しにし、拳を振りかざした、まさにそのときだった。黒ずくめの男たちが何処からともなく現れ、吉井と名乗った男を取り囲んだのは。
「彼は鷲崎直矢。言わなくても分かりますよね?」
すらりと長身の男が一歩前に出た。
「鷲崎って・・・」
吉井の顔からみるみるうちに血の気が引いていった。
「あなたみたいな下っ端が気安く話しを出来る相手じゃありませんよ」
あとは頼んだ。男らを一瞥し、直矢は千鳥足の父親・・・遥の手を引っ張って、脇道へ入った。
「どこいくの?」
「ナイショ」
「なお・・・や・・・っ!」
遥の細腰を抱き寄せると有無を言わさず唇を奪う直矢。
口唇を無理やり抉じ開けると、舌を差し入れ、何やら白い錠剤を喉の奥に捩じ込んだ。
「大丈夫、ただの眠り薬だから」
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