街に悪魔がやってきた

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 A県内で殺人事件が起きた。深夜の幹線道路でバイクに乗っていた男が、電柱に張られたロープで転倒し、即死したのだ。事態を重く見たA県警察本部は、殺人事件として特別捜査本部を立ち上げる。  捜査指揮を執るのは、歩く真相究明と異名を持つ定年間際の倉本刑事だ。その倉本は特別捜査本部で何度も繰り返し、防犯カメラの映像に見入っていた。 「何かが、何かがおかしい……」  防犯カメラが多数ある現代、現場近の幹線道路に多くの店舗が並んでいる。各店舗から集めた防犯カメラ映像に死角は存在しない。被害者が転倒した犯行の瞬間が、幾つもの異なる方向から手に取るばかりに見えるのだ。  彼は一つの防犯カメラの映像に食い入った。反対側にある電柱に括りつけられたロープが路上に敷かれている。そして、こっち側の電柱からいきなり見えない手が動くようにロープが上がり、被害者が転倒する。 「過去三か月間の映像をチェックしたが、電柱に細工をした者はいない。しかも、いきなり電柱にロープが現れた。犯人はまるで透明人間じゃないか」  倉本は、はっとした表情をして、犯行現場にパトカーで向かう。件の電柱に近寄り、拳銃を構えた。 「おい、電柱の中にいるなら、出てきなさい!」  電柱の一部がまるで扉のように開き、暗そうな雰囲気を宿った黒いスーツ姿の男が出て来た。電柱の扉状になった部分は元通りになっている。 「君が犯人だな」 「はい、私がやりました」 「名前は?」 「名前はありません。ヒトからは日本国担当の死神と呼ばれています」  倉本は死神と称する男を逮捕した。男の自供によって、被害者は悪質なヒモで、騙されて借金を抱えた女に頼まれて事件を起こしたことが分かった。殺人依頼で女も逮捕される。  だが、男は死神だといって譲らない。A県警は大学に依頼し、電柱を徹底的に調べたが、人が隠れる場所もなく、不審な点は一切みつからない。倉本の目に映った扉もなければ、隠れる空間さえないのだ。  死神の指紋、DNAも採取されたが、警察のデータベースに該当者は存在しない。どんなに取り調べをしても、男は死神であり、人間ではないと言い切る。  死神の証拠として、過去数百年間の迷宮入りとなった殺人事件を次から次へと自供した。しかも、男は寝食を必要としないと豪語する。  科学者たちの立ち会いのもと実験が行われる。一か月間、死神を隔離して一切水分も食事も与えなかったが、壮健そのものだ。医学的にありえないと科学者たちは言い切った。
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