7-8 『アヴェ・マリア』

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7-8 『アヴェ・マリア』

「今日のクリスマスコンサートはここにいる真部慎一と私、佐久間諒がT管弦楽団の演奏会にピアノ奏者としてそれぞれ演奏会の舞台に立ち、その後の懇親会で親しくなったことで実現しました。今から演奏するのはその演奏会で慎一が弾いたラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番Op.18』の連弾です。そして、その後、『アヴェ・マリア』をブルグミュラー、グノー、シューベルト、カッチーニのメドレーで演奏します。はじめの3曲は連弾ですが、最後のカッチーニの『アヴェ・マリア』だけ、慎一の伴奏で私のソロの歌を娘の萌香に捧げます」  諒の挨拶の後、慎一と諒のふたりは深々とお辞儀し、再び舞台の上のグランドピアノへと向かった—。  やがて、ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番Op.18』のロシア正教の鐘の音を表す主題の導入部を慎一が弾き、続いて諒が加わり、荘厳な趣きで連弾が始まった。慎一と諒が迫り来る波のように奏でる連弾の響きは管弦楽団とはまた違った温かさを保ちながら、ピアノの音の重厚さを支え合い、溢れ出す感情の波や高鳴っていく情熱を表すように鳴り響き共鳴し、一体化していく—。甘美な旋律の第2楽章は連弾に聴き入る人の心に囁きかけるように優しく響き、静かな漣が光り輝いていくような余韻を残す—。スケルツォ的な第一主題と抒情的な第二主題が交互に現れ、融合していく第3楽章はピアノの連弾ならではの繊細さに彩られ、聴衆の心をピアノの音の美しさが際立つピアニズムの世界へと導いていく—。ふたりの息の合った素晴らしい連弾に魅了され、サロンは拍手喝采に包まれた。
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