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第一章
「あれ? なんでいるんですか?」
昼飯から帰ってきたスタッフの一人が俺の顔を見るなり素っ頓狂な声を上げる。失礼な奴だ。
「なんだよ。いちゃ悪いのか」
俺の言葉に彼は慌てて首を横に振った。
「ち、違いますよ。まさか先に戻ってると思わなかったんで、驚いただけです」
「――?」
スタジオにいた全員が顔を見合わせた。
「何を言ってるんだ、お前。戻るも何も、奥村さんは休憩中、ずっとスタジオにいたぞ」
昼休憩の間、ずっと一緒にいたスタッフが言った。
「えっ!?」
目を丸くした彼がこちらを窺う。俺は無言のまま頷いた。
「昼飯もスタジオの中で食べたし、トイレに立つくらいはしたけどスタジオの敷地からは一歩も出てないよ」
今しがた戻ってきた面子以外は全員が頷く。
それが事実なのだから当然だ。
「スタジオに戻ってくる途中、奥村さんとすれ違ったんですけど……。じゃあ、あれは見間違い? いや、それにしては顔も恰好もに過ぎてた気が……」
外で俺を見かけたと言う彼は納得できない様子で首を捻っていた。
「どれだけ似ていようと、俺がスタジオから出てないんだから他人の空似以外にあり得ないだろ。ほら、それより早く続き始めるぞ」
俺は立ち上がり、手を打って皆を促した。彼は釈然としない様子だったが、仕事は仕事。足早に自分の持ち場へと向かった。
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