冬の終わり

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「あり得ない!部長のポストにいる人間を出向させるなんて!あの女よ!あの女が上の人間にある事ない事話しているのよ!私達の念願を邪魔して!何て女なの!誠一の妻でいる間、贅沢三昧な生活をしていたはずよ!慰謝料だって二人から取れるだけ取っておいて、まだ足りないって言うの?あ〜!許せない……。」 「もう…止めてくれ…彩香。愛子には何も出来ないし、そういう事を掘り返す女でもない。俺は連絡先すら知らないんだ。離婚後、綺麗に切れた。それより、冷静になってよく聞くんだ。」 彩香の肩に手を置き、片方の手を引っ張ってソファに座らせた。 誠一も横に座り、身体を彩香の方に向ける。 「いいか?俺はこれからも正式に発表されるまでは知らない振りで仕事を続ける。2月中には彩香の課長昇進の会議が人事であるはずだ。上の人間…部長職以上が集まる。2月なら、俺も初めてそこに入れる。勿論、俺に決定権はないが、話の上にお前の名前がない場合それを出す事は出来る。優秀な部下だからな?女性の手本として目標として、会社のイメージアップとして良い実例が出来るとプッシュ出来る。」 落ち着いてそう話すと、彩香も落ち着いて行く。 小さく頷き、誠一に笑顔を見せた。 「上の人間は多少なりとも俺には同情があるらしい。だから、置き土産にこれくらいは聞いてくれるかもしれない。だが、部長の肩書きは残っても4月からは出向だ。もう口は出せない。だから、チャンスはここだけだ。俺が彩香に何かしてやれるのは……これで終わりだ。どうする?」 「どう…するって?推して…くれるんでしょ?」 誠一の言う意味が分からず、彩香は呟く様に訊き返す。 「彩香が望むなら…出来る限り力は尽くす。だけど…その時はさようならだ。」 その言葉に彩香は動揺した。 首を振り涙を見せた。 「なんで?どうして?出向するから?平気よ?待つわ。…ううん、出向いいじゃない。結婚しても…構わないわ?」 「同じ事業部じゃ無くなるから?」 少し困った顔で笑いながら、訊き返した。 「そうよ!部署も違う、会社も違うわ!問題ないわ?どうして別れないといけないの?」 子供を堕ろした時も泣かなかった彩香が泣いていた。
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